深い深い闇




俺を呼ぶ声は、いつまでも木霊を繰り返し

俺の耳を狂わせる





助けて

誰か助けて
















have a bad dream

















「・・・・・・・うわぁっっ!!!」

ある日の深夜、一人の男性は目を覚ました。





サッと、昨日家に連れてきた女が、隣にいるかどうか確認する。

聞こえてくるのは、規則正しい呼吸。

良かった。夢じゃなくて、現実だ。




安心感からか、俺は女の頭をそっと撫で、額にキスをする。








・・・・・また夢、か。

この夢を見るのは、これで一体何度目だろう。






手の甲で額の汗を拭いながら、窓から空の表情を覗いてみる。

まだ、月が顔を出していて、空は暗い。



「・・・・なんで、こんな夢ばっかり。」



俺は、最近よく同じ夢を見る。

内容は、途切れ途切れにしか覚えていないが、この目覚めからして、良い夢ではない事は確かだ。


俺は、夢の内容を思い起こす。


そう・・・確か、あの夢は・・・・・・










 気が付くと、闇の中。

 俺はポツンと独りぼっちで、その場に立っている。


 右を向いても、左を向いても何も見えない。

 暗闇の他、何も俺の瞳には映らなかった。





 そして、何処からか聞こえてくる、俺を呼ぶ声。

 振り返ると・・・・・・・・・









・・・・・・・何だっけ。

ここから先が思い出せない。

考えれば、考えるほど分からなくなるばかりで。




「・・・・・・・・まぁ、いっか。」


どうせ、ただの夢。

何も起こらないさ。




ふぁぁぁ。と、ひと欠伸してから、もう一度俺は眠りにつく事にした。








その瞬間、彼の枕元に フッと何かが姿を現した。




交通事故で死んだ、あの女。

スヤスヤと眠っている彼を、怨むような目つきで見下ろしている。





「・・・・・・・許さない。絶対に許さないんだから。」





血まみれの女は、枕元に置いてある写真立てを見た。

そこには、愛する彼と今の彼女が幸せそうに映っている写真。



「・・・・・・・こんな物。」

女は、写真立てを握りしめた。




       ピシッ




鈍い音と共に、写真が挟んであったガラスにひびが入った。



「いいわ。」

女は、ひびが入った写真立てを元の所に戻し、白いバラを隣に置いた。

「・・・・・・・憶えてらっしゃい。」


女は、不敵な笑いを浮かべながら姿を消した。





こうして、死へのカウントダウンは、彼の知らないところで開始していた。




















カウントダウン開始から、一日目。












ピリリリリリ。ピリリリリリ。



パッと目覚まし時計の音で、目が覚めた。

清々しい朝のはずなのに、俺の呼吸は乱れ、額にはうっすら汗がうかんでいた。




俺は、また夢を見た。

さっきと全く同じ夢。

でも、いつもとは少し違う。

夢の中の記憶が、前より鮮明だ。







振り返った先には、ひとりの女が居た。

・・・・・・誰だろう。あの人は。

俯いていたから、顔が見れなかった。







・・・・って、なんで俺は夢の事で真剣に悩んでるんだよ。

夢の話。夢の話。

所詮は、空想の世界なのだから。






そう言い聞かせ、彼は重い足取りで会社へと向かった。























カウントダウン開始から、二日目。








     また、気が付くと、闇の中。

     そして、何処からか聞こえてくる、俺を呼ぶ声。







     振り返ると、女がそこに立っていた。

     俯いていて、顔を見る事が出来ない。






     「・・・・・・・さない。」

     あまりにも小さい声だったので、うまく聞き取る事が出来なかった。




     “もう一度言って?”

     そう言おうと思ったけれど、なんだか悪い予感がする。

     この、異常な寒気さは一体・・・・・・・・!?









ピリリリリリ。ピリリリリリ。






目が覚める。



くそっ。何だってんだ。

ムシャクシャした気持ちで、目覚める朝ほど嫌なものはない。





俺は、枕を掴んで壁に投げた。

それでも、この気持ちはおさまるはずはなくて。






イライラしていると、ふとある事に気が付く。

写真立てのガラスが割れている。



「・・・・いつ割れたんだろう??」

写真立てのひびの跡を指でなぞっていると、もう一つ気に付いた。








写真立ての隣に、ひっそりと咲いている


一輪の白いバラ。








「おかしいな・・・・・・??」



俺、白いバラなんてこんな所に置いていたか?



首を傾げながら、白いバラに手をのばす。

その途端、俺の指に赤い模様が出来た。





いけね。

バラには棘があったんだ。





ぷっくりと浮き上がった血を軽く吸った。

ほろ苦い、血の味が俺の口の中を埋め尽くした。




顔をしかめていると、いつの間にか遅刻しそうな時間。



くそっ。ついてねぇ。

小さく舌打ちをして、彼は会社へと向かった。

















カウントダウン開始から、三日目。










     「・・・・・さない。」

     やはり、うまく聞き取る事が出来なかった。

     「もう一度言って?」

     俺が、女に恐る恐る聞く。





     「・・・・・・・・・・。」

     俯いたまま、女は何も言わない。






     “ねぇ”と、俺は少し屈んで、女の顔を覗き込もうとする。

     すると、白い腕がそっと伸びてきて、俺の首を捕らえた。













ピリリリリリ。ピリリリリリ。










「・・・・・・はぁ。はぁ。」



ヤバい。

俺の身体全てが、危険信号を発している。

こんなに身の危険を感じるのは、初めてだ。






俺は、汗で湿った手で首をさする。

俺の首には、あの女の手の感触が鮮明に残っている。





間違いなく あの時、俺は殺されかけていた。

あの女に。






初めての恐怖に、俺はただただ焦っていた。

もう、夢だなんて言っている余裕なんて無い。




とりあえず、水でも飲んで落ち着こう。

俺は、ベッドから立ち上がろうとした。

・・・・と 思ったが、立ち上がれなかった。






足に力が入らない。

それに、何だか少し目眩がする。

とりあえず、薬でも飲んでおこう。





ふらつく足取りで、俺は身体に鞭打ち会社へと向かった。


















カウントダウン開始から・・・・・・・最終日。








会社から帰ってきてすぐ、力尽きるようにベッドへと倒れ込んだ。





ダルい。

でも、今日の取引先は絶対にはずせなかったから仕方がない。

それにしても、こんなに身体が動かなくては、こっちの気も滅入ってしまう。





俺は、あれこれ呟いているうちに、スーツを着たまま眠りについた。



















     気が付くと、闇の中。

     俺はポツンと独りぼっちで、その場に立っている。




     右を向いても、左を向いても何も見えない。

     暗闇の他、何も俺の瞳には映らなかった。







     そして、何処からか聞こえてくる、俺を呼ぶ声。

     振り返ると、女がそこに立っていた。

     しかし、俯いていて顔を見る事が出来ない。






     「・・・・・・・さない。」






     あまりにも小さい声だったので、うまく聞き取る事が出来なかった。





     “もう一度言って?”

     そう言おうと思ったけれど、なんだか悪い予感がする。

     この、異常な寒気さは一体・・・・・・・・!?






     「・・・・・さない。」

     やはり、うまく聞き取る事が出来なかった。



     俺は、心を決して女に聞いた。

     「もう一度言って?」

     そう言った俺の声は、恐怖のあまり震えていた。



     「・・・・・・・・・・。」

     俯いたまま、女は何も言わない。






     “ねぇ”と、俺は少し屈んで、女の顔を覗き込もうとする。

     すると、白い腕がそっと伸びてきて、俺の首を捕らえた。

     その白い腕からは、予想も出来ないような力で、俺の首を絞め始めた。




     “やめろ!!”そう叫ぼうとしても、声が出ない。

     女の力はだんだん強さを増し、俺は気を失い始めていた。


     朦朧とする意識の中、俺は見てしまった。

     笑みを浮かべながら、俺の首を絞めている、女の顔が。



















「うわぁっっっっ!!!」



俺は、涙を流していた。

もう体中汗だくで、顔なんてもう涙なのか汗なのか分からないくらい濡れていた。







俺は、とっさに自分の首を触る。

・・・・・・ひりひりとした痛みを感じる。


俺は、祈るような気持ちで洗面所に向かった。














俺の祈りは、神へと届かなかった。



俺の首にくっきりと残っている、青紫色の指の痕。

どう見ても、人間が絞めたような痣。



俺は、怖くなったのと同時に、やっと気が付いた。

“あの夢は、ただの夢ではなかった”と。





何処でもいい。

早く、ここから逃げなくては。




そう思い、俺は鏡からドアへと視線を移した。





その瞬間、俺は瞬きを忘れたかのように目を見開いた。





身体が動かない。

動く事が許されない。




呼吸がうまくできない。

息を吸う事が許されない。





まるで、時が止まったかのような錯覚に陥った。







その原因は・・・・・・・・・




ドアの前に、立っている女の姿。

俺が以前、愛してもいないのに、金欲しさの為に付き合った女。

その女は、あの頃のように優しい面影はなかった。

顔や服に赤い液が飛び散っていた。




その、赤い液体はインクでも何でもない。

・・・・・・・・血だ。







「ねぇ。私のプレゼント気に入ってくれた?」

女は、口を開いて俺に尋ねる。




プレゼント?

何の事だ?




「あら?気付いていないのかしら?白いバラの事よ。」




あ。

白いバラ。




「その表情だと、気が付いたようね。良かった。
 私。白いバラが好きなの。何故だか知ってる?」

女は、不気味な表情で喋り続ける。

「貴方が初めて私にくれたプレゼントだからよ。」






・・・・思い出した。

あいつの誕生日に白い花束をプレゼントしてやったんだ。



「たくさんの白いバラの花束。本当に綺麗だった。でも・・・・」

いつの間にか、女の手には白い一輪のバラが握られていた。

「白いバラも素敵だけど、真っ赤に染まった赤いバラも魅力的だと思わない?
 赤っていっても、ただの赤じゃツマラナイわね・・・・・。」



女はそう言うと、手の中にそっと握られていたバラを、握りつぶした。

「そうね・・・・貴方の血の色なんてどうかしら?きっと、素敵な赤色に染まるはずだわ。」






握りつぶされたバラは、はらりはらりと床の上に舞い落ちていった。

儚く落ちる花びらは、行き場を無くした今の俺のようだった。




「貴方は私を裏切った。私は、本気で貴方の事を愛していたのに。」

女の顔は、今までとは似ても似つかないような表情に変わっていた。






「・・・・・さない。」




聞いた事があるセリフ。

でも、それは夢の世界のように弱々しく聞こえなかった。

そして、今まで聞き取れなかった言葉を知った。






「・・・・・・・許さない。殺してやる。」



女は俺に飛びかかった。
















夢と同じ事が繰り返される。

白い腕は、俺の首を捕らえ、離してはくれない。



ただ俺は、遠のく意識の中、あの女の言葉だけがいつまでも離れなかった。








“愛しているわ、貴方”
































「ねぇねぇ、知ってる〜?あそこの家に住んでた、男の人の話。」

「知ってるわ。亡くなったんでしょう?」

「私も、知っているわ。まだ若いのに可哀想ね。」

「ええ、そうなのよ。何でも その人の死体の周りには、白いバラがたくさん飾られてたそうよ。」

「何それ?何だか気味が悪いわ。」

「そうなのよね〜。それにね・・・・・・」







 “その白いバラは、血の色で真っ赤に染まっていたんだって”
















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こんにちは、皆さま。まっきぃです。

『deep love』の続きのつもりで書き上げたのですが、、、いかがでした??

死んだ女の人の純粋な愛が、歪んだ愛へと変わっていく。というのを表現したかったのデス。。。(果たして表現できたのかどうか・・・)


deep loveを書いている時は、死んだ女の人が可哀想だなぁ、とか思ってましたが、

このhave a bad dreamを書いているうちに、だんだん男の人が可哀想に思えてきた私です。。。


余談なのですが、この話を書き終わった途端、我が家の洗面所の方で「ガタンッ!!ガタタ!!」という物音が!!!

・・・・ビビりました。書いた本人がビビってどうすんだよ!?・・・・汗。


まぁ、そんな話はいいとして・・・・・最後まで読んでくださって、本当に有り難うございました^^





                                    管理人まっきぃ



モドル